日本の製造業における設計の仕組みは企業の大きさによって全く違います。
ものづくりにおいて設計は時間を掛ければかける程、後工程でのミスや製品が市場にでてからの不良報告が少ないとされています。
しかし設計に時間をかけていてはライバル企業に先を越されてしまいます。そのためいかに効率よく設計業務をこなせるかが機械メーカーの勝負の分かれ目になります。
下記の表は一般的な製造業における機械設計のフローを企業の大きさ毎に示しました。
商品企画 ↓ |
設計仕様 ↓ |
設計仕様 ↓ |
構想設計 ↓ |
詳細設計 ↓ |
詳細設計 ↓ |
基本設計 ↓ |
試作 ↓ |
製造 |
詳細設計 ↓ |
量産開始 | |
試作 ↓ |
||
量産試作 ↓ |
||
量産開始 | ||
大企業 | 中小企業 | 零細企業 |
大企業では人数の多さを利用し分業制にして設計ミスが起きないように各工程で充分な検証を実施します。
中小企業や零細企業では人数が少ない分、ある工程を省いて設計業務に取り組んでいる会社が多いです。
今回の記事では企業の大きさ毎の設計フローについての解説をしていきます。
機械メーカーの設計の仕事内容についてはこちらの記事でも解説しています。
大企業は重厚な設計フロー
大企業の設計フローは以下のようになっています。
商品企画 ↓ |
構想設計 ↓ |
基本設計 ↓ |
詳細設計 ↓ |
試作 ↓ |
量産試作 ↓ |
量産開始 |
大企業 |
まず特徴的なのが自社で商品企画をしている点です。
中小企業の場合は大企業の下請け的な役割をしている事があり顧客(大企業)から企画が出てくる事が多いです。
それにひきかえ大企業では自社内の商品企画部が主体となり商品を企画しその仕様を開発部や設計部に伝えて設計を開始する事が多いです。
自社内に企画者がいる為、仕様のすり合わせが容易です。これにより企画者と設計者の思い違いも少なくできます。
企画者と設計者の距離が遠いと仕様の思い違いが起こり、企画者が思い描いていた商品と全く違うものが設計されたり、最悪の場合製造までされてしまう可能性があります。
企画案が出てきた後は構想設計に入ります。構想設計ではまず製品の仕様書を作成します。仕様書の元になるのは企画案です。企画案の意図を満たすような仕様書に仕上げます。
仕様書に記載する内容は具体的な数字で表現します。例えば機械の重さの項目であれば「できるだけ軽くする」という表現ではなく「100kg以下」と記載します。
数値にする理由は判断基準を明確にするためです。重い、軽いは主観です。数字は定量的です。定量的にすることで誰でも客観的に判断する事ができるため仕様書には可能な限り数字を入れます。
仕様決定後は仕様を満たすための構想を練ります。構想のアウトプットになるのが設計書です。設計書を作成しデザインレビューで承認をもらうと次の詳細設計に進む事ができます。
詳細設計では構想設計で検討した設計案をより具体的なものにしていく作業です。例えば構想設計では決めていなかった「装置の具体的な大きさ」を入れていくのもこの段階です。
構想設計や詳細設計の内容についてはこちらの記事も参照下さい。
詳細設計まで完了すると試作、量産試作、量産の順に進みます。
大企業の設計の特徴は審査場面の多さです。これまで説明した商品企画から量産まで各フローで審査があります。構想設計では設計審査(デザインレビュー)があります。
この審査を通過しないと次の工程に進めません(会社によっては納期の関係で進んでしまう事もありますが)。そのため企画から量産開始まで時間が掛かってしまう事があります。
反面、各工程で人数を掛けて審査をしているので間違いを発見しやすいと考える事もできます。
機械メーカーの仕事の流れについてはこちらの記事を参照して下さい。
中小企業は人手不足を考慮した設計フロー
中小企業の設計フローでは大企業の工程からいくつかの工程をすっ飛ばしてしまう事が多いです。これは大企業に比べるとマンパワーに欠けるためです。
設計仕様 ↓ |
詳細設計 ↓ |
試作 ↓ |
量産開始 |
中小企業 |
そのため仕様が決まると構想設計を行わずに詳細設計に入ってしまう場合があります。具体的に言うと「設計書がない」と言うことです。
設計書を作らずにいきなり絵(ポンチ絵)を描くことからスタートします。設計書を作らない問題点についてはこちらの書籍で詳しく説明しています。
ついてきなぁ! やさしい研修編-機械設計の企画書と設計書と構想設計-
設計書がないため設計審査(デザインレビュー)も実施されずに出図している設計部署もあります。設計書がなければ設計した機械の根拠がない為、不具合が起きた時の原因究明と対策が非常に難しくなります。
そのため中小企業や次に紹介する零細企業でも必ず設計書を作成する必要があります。
零細企業はスピード重視の設計フロー
従業員が10名以下で家族だけでやっているような会社の場合は受注から納品までのスピードが大切なため設計フローもかなり省略されています。
設計仕様 ↓ |
詳細設計 ↓ |
製造 |
零細企業 |
設計書も存在せず設計検討した内容が設計者個人がノートで書いている物だけの場合や最悪設計者自身もメモはしたけどそのメモは廃棄してしまうケースもあります。
また試作や試作した品の検討もせずにできたものを納品しないといけない場合もあります。試作や試作品の検討には時間とお金が必要だからです。
そのため零細企業では試作工程を飛ばしていたり簡易にしている会社もあります。
もちろん製造された製品が顧客の仕様を十分に満たしていれば問題ありません。設計時の漏れもなく、想定した動きを完璧にこなし安全面も問題なければ良いですが一発で完璧な機械を作ることは難しいです。
そのため大企業では試作、試作検討を実施しています。本来であれば大企業のような設計フローを踏みたいですがマンパワーや設計期間、お金の関係で零細企業や中小企業では設計工程の一部を省いてしまう事があります。
まとめ
- 大企業はマンパワーがあるので設計に時間を掛けられ十分な審査もできる
- 中小企業、零細企業はマンパワーがないため設計や試作の一部工程を省いてしまうケースがある
- 中小企業、零細企業でも設計書は作らないといけない