小林化工、日医工の不正がなぜ行われたかを知りたい方
製薬製造現場を改善したい方[/box04]
福井県にある後発医薬品の製造メーカーの小林化工が2020年に同社が製造した爪水虫などの治療薬イトラコナゾール錠50「MEEK」に睡眠導入剤成分が混入した問題を起こしました。
この問題が発生した原因を同社は以下のように説明していました。
・「原料を取り違えたヒューマンエラー」
・混入は、加工途中に目減りした原料をつぎ足す作業で発生。同錠剤の工程は、原料の計量や乾燥、粒子の均一化など数日にわたり、有効成分であるイトラコナゾールは機械に付着するなどして目減りする。作業はチェック役と2人一組で行う規程だが、当時は1人で行っていたという。
引用元 福井新聞 2020年12月18日
[box04 title=”追記2021年3月8日”]ジェネリック医薬品(後発薬)製造大手「日医工」(富山市)でも富山第一工場(富山県滑川市)で不正があった事が見つかった。
製品の出荷試験で不適合(逸脱)があった場合、「逸脱管理責任者」が数人から十数人を招集する「逸脱会議」と称する会議を開催。
逸脱品の対応を検討した。
本来は廃棄しなければならない錠剤を砕いて作り直したり、サンプル試験をやり直したりするなど国が認めていない手順を繰り返した。
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この問題について製薬メーカーの製造現場に100回以上は出入りした事がある機械装置メーカーの設計者がこの問題の本質について解説していきます。
[box06 title=”あわせて読みたい”]睡眠導入剤混入の小林化工、事故調査結果報告書5つのポイントを解説小林化工と日医工の社員はどうなるのか? |過去の不正事例から考える|
小林化工の問題点を製薬製造現場を知る技術者が考える 品質管理部門編
[/box06]睡眠導入剤成分が混入した問題の本質は2つ
薬に本来は入ってはいけない睡眠導入剤成分が混入しそれが市場に出回ってしまった問題の原因は2つあります。
- GMPが守られていなかった
- 品質保証部門が働いていなかった
今回の記事ではこの内の「GMPが守られていなかった事」を取り上げていきます。
品質保証部門が働いていなかった問題については以下の記事で紹介しています。
[box06 title=”あわせて読みたい”]小林化工の問題点を製薬製造現場を知る技術者が考える 品質管理部門編[/box06]まずGMPについて分かりやすく説明します。
GMPは薬を作るレシピ
GMPはGood Manufacturing Practiceの略で製造業者と製造販売業者に求められる製造管理・品質管理基準の事です。
品質管理とは、医薬品等の原材料の入荷、検品から製造、製品の包装、出荷管理、製品保管、回収処理などに係る業務です。
医薬品製造においては薬事法に基づくGMP省令を遵守することが定められています。
簡単に言えばGMPは薬を作るレシピと手順です。薬の製造現場においては使用する原材料、機械、そして配合はGMPで決められています。
GMPで決められた手順以外では薬を作る事は許されません。
なぜならば薬は人体に多大な影響を与える可能性があるからです。一歩間違えれば薬を飲んだ人の命を奪いかねない品物が薬です。
そのため料理とは違って感覚や気分や作る人によって手順や機材を変えてはいけないのです。
- 薬の製造は決められた機械、材料、手順を必ず守る必要がある。料理とは違う。
もしGMPを違反したらどうなるのでしょうか?
GMPで決められた手順を守らずに薬を製造していた場合は医薬品医療機器等法(薬機法)違反により業務停止命令等の重い罰則を受けます。
[box04 title=”追記2021年3月8日”]小林化工は116日間の業務停止命令と業務改善命令を受け、日医工は32日間の業務停止命令を受けました。これは薬を製造する事を禁止させられる極めて重い処分です。 [/box04]小林化工はGMPを守っていたのだろうか
今回問題になっている小林化工の製造現場はGMPを守っていたのでしょうか?
同社は「混入は、加工途中に目減りした原料をつぎ足す作業で発生」したと説明してます。まず原料が目減りした時に注ぎ足す作業はGMPで定められていたのかが疑問です。
薬の混合工程中に原料成分のみが目減りしているとどうして分かったのでしょうか?成分分析を混合行程中にかけていたのでしょうか?
必要な分だけ注ぎ足す作業がGMPで定められているとは考えづらいです。
また「注ぎ足し作業はチェック役と2人一組で行う規程だが、当時は1人で行っていたという」とありました。
GMPでは重要な工程についてはダブルチェック体制を取ることが定められているはずです。もし原料を注ぎ足す作業が作業手順になっているならば原料を取り間違えるミスを抑止するために必ずダブルチェックをします。
それが今回行われていなかったという事はGMP違反と考えて間違いないです。
GMPを守るために製薬会社がやらないといけない事
GMPは薬を飲む患者様が安全、安心に服用するために決められたものです。当然、医薬品医療機器等法(薬機法)でも定められています。
これを逸脱する事は何があっても許される事ではありません。
ここからは筆者の想像です。
小林化工は製造現場でのダブルチェックを日常的に怠っていた可能性が高いです。チェックはほとんどの場合問題がなく通ります。
そのためはじめはダブルチェックしていた作業がだんだんと1人でチェックして、最終的には自分でもチェックせずいつも通りの容器だから問題ないと品名やロット番号を確認せず作業をしてしまいがちです。
- 忙しいから
- 人がいなかったから
こういったワードでGMPから逸脱していたのではないでしょうか。
現在製薬メーカーで特に後発医薬品の製造メーカーは苦しい立場にあります。薬価は年々下げられ昔に比べると製薬メーカーは利益を上げる事が難しくなっています。
それが製造現場の人手不足や無理な働き方をさせる一因にもなっているのでしょう。
しかしGMPを順守する事は法令で決まっています。違反は絶対に許されません。
再度社員にGMP教育を実施しGMPを順守する事の大切さを製造部員一人一人に伝える必要があります。
もし人員や設備の問題で順守が難しいと現場が訴えてきたら費用が掛かっても問題を解決しなくてはいけません。
それがGMP順守につながるからです。
機械設計者が考える問題の解決策
製薬現場は数十年前に比べたら自動化が進みました。
しかしまだまだ人が介在する現場が多数を占めています。
特に工程間の移動は人の手で行っている事が多いです。
秤量と造粒、造粒と乾燥、乾燥と混合、混合と印刷、印刷と検査、検査と包装。
この工程間は人が移動させ開封、投入をします。
人が介在すればするほど、ミスは増えます。そのため間違いをなくす究極の方法は全ての工程を1つのラインで行う事が理想です。
しかし製品が多数ある以上、この方法は現実的ではありません。
現実的にはロット毎にバーコード管理を行い決められたバーコードのものしか機械が受け付けないようにする方法を取るべきです。
それを原料入荷から製品出荷まで全ての品目で実施する事が原料取り間違いミスを防ぐために費用対効果が高い方法だと考えます。
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小林化工の問題点を製薬製造現場を知る技術者が考える 品質管理部門編
[/box06]GMPや製薬製造に関するリンク集
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GMPの更なる理解はこちらのサイトが分かりやすいです
実務で使えるGMPを学ぶための本はこちらです
医薬品製造現場の工程や写真が多数のっている大塚製薬さんのサイトです
薬を作るプロセスを学べる本はこちらです
[/box06]以上