睡眠導入剤混入の小林化工、事故調査結果報告書5つのポイントを解説

福井県にある後発医薬品の製造メーカーの小林化工が2020年に同社が製造した爪水虫などの治療薬イトラコナゾール錠50「MEEK」に睡眠導入剤成分が混入した問題を起こしました。

その結果福井県は、2021年2月9 日、薬機法75条1項に基づき、小林化工に対して116日間の第一種医薬品製造販売業務の停止を命じました。

この事故に対しての調査が外部の特別調査委員会によって行われ、2021年4月16日に調査結果報告書(概要版)135ページ分の形で報告されました。

小林化工調査結果報告書(概要版)PDF版

この記事では5つのポイントに絞り、小林化工が薬を製造する会社としてどんな問題を抱えていたのかをまとめています。

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目次

日常的にGMP違反が行われていた

調査書の中で繰り返し述べられているGMP違反が小林化工内で日常的になっていることが同社の大きな問題と指摘されています。

小林化工調査書_多数のGMP違反_P56

GMPとはGood Manufacturing Practiceの略で薬の製造業者と製造販売業者に求められる製造管理・品質管理基準の事です。

医薬品製造においては薬事法に基づくGMP省令を遵守することが定められており医薬品を市場へ出荷し製造販売するためには厚生労働大臣の許可・承認を得る必要があります。

すなわち薬をつくるための国が定めているルールと言っていいでしょう。

GMP省令で定められた基準の一部にはこのようなものがあり調査書でも紹介されています。

  • 製品標準書の作成・保管
  • 各種基準書・手順書の整備
  • 製造指図書の作成及びそれに従った製造の確保、記録の保管
  • 変更管理
  • 逸脱管理
  • 安全管理
  • 自己点検

これらはすなわち薬を安全で一定の品質を保つための基準です。

今回調査委員会の調べて分かったGMP違反は以下のものがあります。

  • 承認書と製造実態の齟齬(そご)
  • 他製剤の混入
  • 製造場所の齟齬(そご)
  • 承認書と製造実態の齟齬(そご)
  • MES へのマスタ登録の遅延
  • 承認書及び SOP と MES のマスタ登録 の間の齟齬(そご)
  • 原料・資材試験グループにおける一部の試験不実施
  • 製品試験グループにおける一部の試験不実施
  • 承認書や SOP と齟齬する試験の実施
  • 安定性試験における不適結果の放置
  • 製品試験における不適切な再試験
  • 逸脱の処理手順について

齟齬とは意見や事柄が、くいちがって、合わないこと。くいちがい。

小林化工の複数の事業所でGMP違反が日常的に行われていました。

これを取締役社長含めて経営幹部は認識していたようです。

小林化工調査書_代表取締役社長のGMP違反認識_P89

それにも関わらず業務を通常通り続けていたということは薬を製造、販売する会社としてあってはならないことです。

製造指図書とは別の製造フローが存在していた

まず、薬機法上、薬の製造販売業者は、取り扱う品目ごと(薬ごと)にPMDAの承認を取得する必要があります。

PMDAとは独立行政法人医薬品医療機器総合機構「Pharmaceuticals and Medical Devices Agency」は、厚生労働省所管の独立行政法人です。

以下の業務を行っています。

・医機法に基づく医薬品・医療機器などの審査関連業務

・医薬品の副作用などによる健康被害救済業務

・医薬品や医療機器などの安全性を確保する安全対策業務及び情報提供業務(審査報告書、添付文書情報等提供)

出典:医薬品製造の基礎知識 PMDAと厚生労働省の違いとは!?

PMDAから承認が得られると製品標準書(SOP)が作成されます。

製品標準書(SOP)には、承認事項や製造手順等が記載されます。

製品標準書が作成されると、その中の製造手順に基づいて、製造指図 ・記録書が作成さ
れ、作業者は製造指図・記録書に基づいて、実際の作業を行い、製造記録を記録します。

小林化工は生産管理部において、製造指図書と製造記録書を一体化させた製造指図・記録書が作成されていました。

しかし今回事故が起きたイトラコナゾール錠50mgを含めた313製品において製造指図書とは異なる方法で薬が製造されていました。

承認書(製造指図書)と異なる製造方法は「現場フロー」と呼ばれる手順書に記載されており、作業者は正規の書類である製造指図・記録書ではなく、現場フローを参照しながら薬の製造を行っていました。

小林化工調査書_イトラコナゾール錠50mg製造実態_P35

製造指図・記録書に実態と異なる数値を記入していた

調製工程では、製造指図・記録書に添付された秤量の記録を確認する役割を負った従業員がいました。

その従業員は、秤量の記録が製造指図・記録書で指定された量と異なっている場合は、当該従業員自ら、又は作業担当者に指示して分銅を使って秤量記録を作り直すようにしていました。

このように、GMP上の正規の書類である製造指図・記録書には実態とは異なる数値が記載されていました。

小林化工調査書_製造指図・記録書に実態と異なる数値を記入していた_P40

小林化工幹部層がGMP違反を黙認していた

小林化工の大きな問題点は承認された製造指図・記録書を使用せず現場フローを使い薬を製造してきた点です。

これはGMP違反であり薬を製造、販売する会社としては直ちに改善しないといけない課題でした。

小林化工の幹部達は製造指図書と製造実態に齟齬がある点について長年認識はしていました。

  • 代表取締役社長
  • 総括製造販売責任者(研究開発本部長)
  • 品質保証責任者
  • 安全管理責任者
  • 生産本部長
  • 矢地事業所の製造管理者
  • 清間事業所の製造管理者
  • 取締役副社長 元総括製造販売責任者

幹部全員、認識の重さには差がありますが社内でGMP違反が行われていることを知っていました。

2017年の4月には当時、生産本部長兼研究開発本部長を務めていた現在の総括製造販売責任者は、外部の薬事コンサルタントを起用した上で、矢地事業所及び清間事業所のGMP体制の改善をするための取り組みを行いました。

一定の成果はありましたが重篤なGMP違反を解消する契機とはなりませんでした。

2018年以降も月から、現場フローを製造現場から廃止し、製造指図・記録書に一本化するための取組が開始されています。

しかし承認書や SOP の内容を変更するために必要となるバリデーションを実施する人的、時間的余裕が生産技術部、及び製造部のいずれにおいても足りませんでした。

小林化工調査書_齟齬の解消_P88

すなわち会社の経営層はGMP違反の改善よりも薬を生産することにお金と人のリソースを割くという判断をしたのです。

睡眠剤混入はヒューマンエラーではない

「水虫薬に睡眠剤が混入した」ことを当時、代表取締役社長は「ヒューマンエラー」としていました。

しかし調査委員会の数か月におよぶ調査結果からは今回の事件については「ヒューマンエラー」ではないと位置づけています。

調査結果の原文をそのまま載せます。

医薬品製造において、製造に従事する作業者は、製造工程の一要素として捉えられる。

作業者が安全性が確立された作業手順に厳格に従い、確実に作業を実施することは、安全
な医薬品を製造する上で不可欠の要件となる。

しかし、調査の結果明らかとなったのは、小林化工においては、作業者が手順に従って
確実な作業を行うという基本的な所作が徹底されていないということであった。

まず、そもそもの問題として、小林化工においては、作業者が従うべき作業手順が管理
されていないに等しい状態にあった。

小林化工においては、多数の製品において承認書と齟齬した製造が行われていた上、日々の製造作業は GMP 管理されていない現場フロー等に基づいて行われており、正規の文書である製造指図・記録書は、形骸化していた。

他方、製造実態を反映しているはずの現場フローについても、明確な記載ルールは存在しておらず、当委員会が確認した範囲でも、製造記録がほとんど記載されていない現場フローも存在していた。

出典:小林化工 調査結果報告書 p113

小林化工の製造現場には安全で品質な薬を作るためのルールGMPが無視され、作業者のさじ加減でなんとでもなるような薬の製造方法がとられていました。

これは職人技に頼ってもいい分野ならば良いですが薬の製造工程ではあってはいけないことです。

今回の問題点は薬の製造メーカーとして薬を作るための手順書を作り、それを作業者に徹底させることを長年放置してきた組織としての失敗にありました。

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