機械設計では設計という言葉と製図という言葉があります。
どちらも外から見ているとやっている作業には同じに見えます。パソコンの画面を睨めっこしてCADを操作しています。
しかしこの2つには明確な違いがあります。設計は営業や企画部門から提出された企画書や要求仕様書を元に機械の大まかな構想を練る作業です。
製図とは設計で練られた案に対して部品1つ1つまで図面に落とし込んでいく作業を指します。
設計と製図では作業者が違う場合もあります。設計作業は機械設計者が行う作業です。機械を設計する上で核になる作業のためベテランの設計士がリーダーとなり作業を進めます。
製図は設計士の若手やCADオペレーターに任せる事も多いです。そのため製図作業は設計に比べて軽視されがちですが必ずしもそうではありません。
この記事では設計と製図の違いを作業内容と作業者の視点で解説します。
設計の始まりと終わりは要求仕様書と部品図
設計には明確なインプットとアウトプットがあります。これは品質保証のための国際規格ISO9001にも明確に定義されています。
設計部門は別部署またはお客様からのインプットがあり、インプットを元に設計作業を行いアウトプットを提出します。
設計のインプット
設計のインプットは営業部門や企画開発部門、またはお客様から直接提出されます。会社によって名前は違いますが一般的に「要求仕様書」と呼ばれることが多いです。
営業部門や企画開発部門の仕事についてはこちらを参照して下さい。
要求仕様書には機械の機能や性能、守るべき事、その他要求事項が書かれています。
例えば牛乳瓶を洗浄する機械の要求仕様書であれば以下のような事が書かれています。
・対象牛乳瓶の大きさはφ50mm高さ180mmの牛乳瓶に限る
・洗浄能力は100本/分(1分当たり100本洗えるようにする)
・使用環境は18°~25°
このように機械に求められている事が書かれているのが要求仕様書になります。機械を設計するためにはこの要求仕様書があって初めて設計をスタートすることができます。
機械設計部門の詳しい仕事内容についてはこちらの記事を参照下さい。
機械設計部門の仕事の種類
設計のアウトプット
設計部門のインプットとしては要求仕様書がありました。アウトプットは「技術資料」と「部品図」になります。
技術資料といのはインプットである要求仕様書を満たすことができると言える根拠となる資料です。
この中には強度計算やデザインレビューの議事録があります。会社によってはこの技術資料を残さなかったり、設計者個人が管理している場合もありますがそれは機械メーカーとしてはよくありません。
実際に機械ができあがり試運転をした時に上手く機能が果たせなかった時まずは技術資料を見返します。どの計算を間違えたのか、どこまでは上手くいって、何を間違えたのかを確認する資料が技術資料です。
そのため会社としてきちんと技術資料を保管する仕組みが大切です。
設計部門のアウトプットのもう1つが「部品図」です。
部品図は機械を構成する部品1つ1つの製作図面です。これがないと部品を製作することができない貴重なものです。
機械を構成する部品が100ある場合は部品図は100枚作成する事になります。部品図を作成する事を製図と呼んでいます。
アウトプットである「技術資料」と「部品図」を出図して設計の仕事は完了になります。
設計とは構想設計と詳細設計
では設計とは具体的に何をする事を指すのでしょう。
設計はインプットである要求仕様書を元に要求を満足させるための手段を検討するのが仕事になります。
大きく分けて設計は構想設計と詳細設計に分かれています。
構想設計
構想設計では要求仕様を満たすための機械の構造をポンチ絵で作成します。ポンチ絵とは機械の概略を描いた簡易な絵の事です。
ポンチ絵を描く理由は機械設計者の頭にあるイメージを絵にする事でイメージをより具体的で漏れがないようにするためです。また絵にする事で他の設計者との共有も言葉にするより分かりやすいです。
ポンチ絵は紙とペンを使い手書きすることが多いですが設計者によっては2DCADや3DCADを使った方が速く作業できる場合はそちらを使う事もあります。
ポンチ絵を使い構造を検討しBOMと呼ばれる部品表も仮で作成します。
BOMにはポンチ絵の中で使われている部品を羅列します。部品には名称や材質、表面処理、市販品の有無を記載し概算の値段も入れます。
BOMを作成する事により機械の概算の部品原価も検討する事ができます。
ここまでは構想設計の内容です。構想設計が終わると詳細設計の前にデザインレビューを設計部門単独、もしくは製造部門と連携して実施します。
デザインレビューでは問題点や改善点を指摘し変更の必要があれば再度検討します。内容によりけりですが大きな変更がない場合は次の詳細設計に進みます。
再度構想設計に戻ってしまうと設計期間が延びてしまい納期に影響がでるからです。
詳細設計
詳細設計では構想設計で作成したポンチ絵を元により具体的に機械を設計します。
具体的にというのはポンチ絵に「数値」を入れる作業です。ポンチ絵というのは数値が全く入っていないため大きさの感覚がありません。そのためいくらでも大きくも小さくも描くことができます。
しかし現実的には機械を設置できるスペースは限られているため大きさを意識する必要があります。
そのため詳細設計では2DCADや3DCADを使いポンチ絵から計画図(組立図)を作成します。計画図には部品1つ1つをモデリングしそれを合わせて1つの機械にCAD上で組み上げます。
この段階で部品の寸法も決まるため強度計算を行い機械の強度に問題がない事も確認します。問題があれば寸法をもう一度見直します。
計画図ができた段階で詳細設計は完了になり再度デザインレビューを実施します。
問題がなければ製図作業に移ります。
構想設計や詳細設計について詳しくは以下の本に記載があります。
製図は設計案を図面に起こす作業
詳細設計まで終わると製図作業に移ります。
製図作業のインプットは詳細設計で作成した計画図(組図)です。アウトプットは部品図になります。この計画図から部品図に落とし込む作業をバラシ作業とも呼びます。
2DCADで描かれた計画図の場合は同じ2DCADを使用します。計画図には機械で使われる部品が全て描かれているのでその中から1つの部品を取り出し1枚の図面に描いていきます。
部品図の中には主に以下の情報が入ります。
・寸法
・寸法公差
・幾何公差
・表面性状
・表面処理
・材質
・数量
これらを全て正確に記載します。良い部品図は「誰が作っても同じ部品ができる」図面です。これを意識して製図します。
計画図が3DCADで描かれている場合は同じ3DCADもしくは別の2DCADを使用し3Dモデルを平面な3面図に落とし込みます。
その後は上記と同じように必要な情報を記載し部品図を作成します。
部品図を作成し、先輩の設計者や上司に検図と承認をもらい出図となります。出図作業が終わると設計作業全てが完了になります。
機械設計者の仕事とCADオペレーターの仕事
設計と製図では作業内容に明確な違いがありました。設計は構想を練りそれをポンチ絵としてアイディアを出しCADを使って計画図にする作業
製図は計画図から部品図へのバラシ作業を指しました。
機械設計者の仕事は文字通り設計作業、CADオペレーターの仕事は製図作業が主になります。
設計作業は機械の根幹を決める非常に大事な作業であり、多くの経験を必要とします。そのため若い機械設計者やCADオペレーターではなくベテランの設計者がリーダーとなり仕事を進めます。
若い設計者はリーダーの元、ユニットと呼ばれる機械を分割させた1つの部分を任され設計します。最初は小さいユニットや比較的簡単なユニットから設計を行い経験を積むにつれて難しいユニットを担当します。
CADオペレーターがこの設計作業に加わることは少ないです。CADオペレーターの多くは製図作業のみや設計業務でも機械設計者のアシスタントとして計画図を作成します。
設計業務が効率化のためこのように設計と製図で作業者が違う場合が多いですが設計するために製図の事を知っておく必要もありますし、製図をするために設計の意図を理解しておく必要もあります。
そのため設計、製図どちらも大切な作業です。大企業では設計と製図の分業化が進んでいますが中小の機械メーカーや設計事務所では1人の設計者が設計も製図も行っている会社もあります。
1人で設計、製図をするのは覚えるべき事も多くなり苦労も増えますがその分やりがいも感じられる事が多いと多くの設計者が口にします。
特に若い設計者であれば設計だけ製図だけとならずに多くの業務を経験し設計能力を向上させる事をおススメします。
まとめ
- 設計のインプットとアウトプットは要求仕様書と部品図
- 設計とは構想設計と詳細設計
- 製図は計画図から部品図を作成する作業
- 機械設計者は設計、CADオペレーターは製図が主な仕事