技術者として働いている時に「この人(会社)はいいお客様だなぁ」と思う時があります。
現役の機械設計者である私が考えるいいお客様の条件は2つあります。
- 高い金額を払ってくれる
- 自分の技術を成長させてくれる
自分達の商品に高い金額を払ってくれ、かつ自分の技術を成長させてくれるお客様がいいお客様だと考えています。
しかし私の同僚である他の設計者達は私と意見が違いました。
同僚達は”自分の事を怒らない”お客様をいいお客と考えているようでした。
彼らは「怒らない客がいい客」とは言いません。
しかし言葉の端々からそのように考えているという事が分かりました。
私は自分の意見が100%正しいとは考えていませんが技術者として「怒らないお客がいい客」という考え方は間違っていると思ったのでこの記事を書く事にしました。
もしこの記事を読んで頂いている方が技術者や機械メーカーに勤めている方であればお客様とはどういう存在なのかを考えるキッカケにして欲しいです。
目次
会社にとって最もありがたいのはお金をたくさん出すお客様
会社にとって最もありがたいのはお金をたくさん出すお客様です。
そんなの当たり前と考えている人達もいるとは思いますがもう一度「なぜお金をたくさん出す人達がありがたい存在」なのかを考えてみます。
まず会社が存在する理由は「売り上げを上げて、利益を出し、株主の利益を最大限高めるため」と私は考えています。
もちろん、この意見にはたくさんの反対意見があるでしょう。
- 会社は社会のためにある
- 会社は社員のためにある
こうした意見に私も賛成ですが日本の会社の大多数は株主(オーナー)第一優先であると考えています。
株主第一優先であれば「会社の利益を上げる」事が第一優先になり、「お金をたくさん出してくれる=いいお客様」という構図ができあがります。
ここまでは会社という視点で考えましたが次に従業員の視点で考えてみます。
従業員の立場でもお金をたくさん出すお客様はありがたい
会社視点ではなく従業員視点になるとどういったお客様が「いいお客様」になるのでしょうか?
私の考えでは「従業員の立場でもお金をたくさん出すお客様=いいお客様」です。
これには理由があります。
お金がたくさんある会社は正のスパイラルが生まれるからです。
- 商品を高い金額で購入してくれる
- お金がたくさん入る
- 新しい機械や従業員にお金を使う事ができる
- 更に良い商品が作れる
- 良い商品が作れるのでまた高い金額で買ってもらえる
このようなスパイラルを回す事によりそこで働く従業員に次のようなメリットがあります。
- 給料が増える
- 福利厚生が手厚くなる
- 新しい設備や機械が増え仕事が楽になる
給料が増え、働く環境が良くなる事は従業員にとってはプラスしかないです。
こうした正のスパイラルに突入するためには商品に対して高い金額を払ってくれるお客様が必要になります。
小さい金額をケチるようなお客様では会社が貧乏になるだけで正のスパイラルに乗る事ができないからです。
会社における従業員の満足度を上げるためにも「高い金額を払ってくれる、いいお客様」が必要なのです。
実際はお客様のお金のあり、なしは技術者にとっては関係ない
ここまで高い金額を払ってくれるお客様は会社にとっても、そこで働く従業員にとってもいい事であると言ってきました。
しかし会社で働く技術者にとって「お客様が高い金額を払ってくれるかどうか」はどうでもよい事が多いです。
なぜならどんなに高い金額で売れ、利益が上がっても「自分の給料が上がる事はないから」です。
私は中小企業の機械設計者として年間1億円以上の売り上げを上げています。
- 機械の設計
- 機械の調整
- 機械の点検やオーバーホール
- トラブル対応
これらを合計すると1億円以上になります。
しかし私の給料は残念ながら500万にも届きません。
それはなぜかと言えば1億円売り上げてもそのお金は私以外の従業員の給料や会社の固定費、株主の配当になっていくからです。
営業マンであれば売り上げの何%はボーナスになる事もあるでしょうが技術者であればそういったインセンティブがある会社はほとんどないと思います。
「技術者の懐に入って来るお金」というインセンティブが働かないので1億円の機械を買ってくれようが1千万円の機械を買ってくれようが「よいお客様」とは思わないのです。
技術者にとってよいお客様は「自分を怒らない」人達
では技術者にとってよいお客様とはどんな人達なんでしょうか?
それは「自分の事を怒らない」人達です。
技術者は会社の売り上げを上げる事にほとんど興味はありません。
ほとんどの技術者は「平凡で、不自由がなく、普通に暮らせる」そんな状態を理想としている人が私の周りには多いです。
世間一般のイメージでは技術者は研究が大好きで新しい事をやりたがる人達と思われがちです。
しかし現実にはこういった革新的な考え方を持っている技術者は少数派です。
そのため成果ではなく失敗をしないで上司に怒られないかを気にしている人達が多いです。
こういった背景で技術者とお客様の関係を考えてみます。
技術者が嫌う事は「上司に怒られる事」です。
上司が部下を怒るパターンはいくつかあるとは思いますがその代表的な事に「お客様のクレーム」があります。
お客様からクレームがあれば技術者に限らずどんな職種の人でも会社内で怒られると思います。
私の勤めている機械メーカーでは次の2点が技術者にクレームとして言われる事が多いです。
- 機械に問題がある
- 技術者の対応が不親切
機械に問題がある
お客様から「機械に問題があるんじゃないか!」とクレームが入る事があります。
問題というと、「なにがなんでも絶対に解決しないといけない致命的な欠陥」と思ってしまう人もいますが実はそうではありません。
問題とういうのは曖昧な言葉です。
同じ事象であっても問題かどうかというのは人によって差異があるからです。
例えば500mlの水をコンビニで買った時にそれが499mlであっても「OK」と思う人もいれば「NG」と思う人もいるでしょうあ。
それと同じように機械であっても「OK」、「NG」は会社や担当者によって全く異なります。
お客様が買ってくれた機械に問題があるかどうかは仕様書に基づいて判断します。
しかし全ての項目が仕様書に記載されている訳ではないので最終的にはお客様が納得するかどうかになります。
同じお客様でも担当する人によって判断がバラバラな時もあります。
ちょっとの不具合でも「大丈夫ですよ」と言ってくれる人もいれば、全く問題ではない事でも「この機械は問題だらけですよ!」とクレームをつけてくる場合もあります。
技術者の対応が不親切
もう1つのクレームとしてお客様から「技術者の対応が不親切だ」と言われる事があります。
例をあげると
- 対応が遅い
- 機械の検査をないがしろにしている
このような事が私の周りでも言われたことがあります。
クレームが会社に入れば当然問題になり担当している技術者が怒られたり、評価を下げられる場合があります。
しかし「対応が不親切」というのは100%お客様の主観であるため実際に不親切かどうかという見極めは難しいです。
私の同僚の場合は会社が休みの土曜日にお客様から「機械を直しに来い!」と言われ「今日は休みなので月曜日の朝に伺わせて頂きます」と答えたら「対応が遅すぎる」とクレームを入れられたことがあります。
これは客観的に見れば遅くはないと思う人が大半だと思います。
しかしお客様が「遅い」と思ったので会社にクレームが入り技術者が怒られる結果になってしまいました。
「機械に問題がある」、「技術者の対応が不親切」どちらの場合でも客観的な判断ではなく、お客様の担当者の主観でクレームが来るかどうかは決まります。
技術者からすると主観的な判断でクレームを入れられて、会社から怒られるのはたまったものではありません。
そのため技術者にとって「良いお客様」は自分の多少のミスや機械の細かな不具合も気にせず会社にクレームをいれる事がないお客様なのです。
「優しいお客様」は技術者にとっていいお客様なのか
「優しいお客様」は技術者や会社にクレームをいれない人達だとこれまで説明しました。
しかし技術者にとってこういった人達ばかりのお客様でいいんでしょうか?
クレームを入れないお客様は技術者にとって楽な存在です。
文句を言われないので自分で考える必要もないからです。
この「考えなくなる」というのは大変怖い事だと私は考えています。
技術者が考えなくなれば、その会社の商品、技術、サービスの質が向上する事はあり得ません。
なぜならメーカーにおける商品は技術者が作りだしているからです。
質の高い商品が作れなくなれば当然ライバルメーカーから遅れをとる事になり、段々と商品が売れなくなります。
商品が売れなくなれば会社を売り上げを立てる事ができず最悪の場合会社が潰れます。
会社が潰れようがスキルをもっている技術者であれば他の仕事が山程あります。
しかしこれまでに何にも考えず、スキルも全くない技術者であれば彼らが次に転職できる会社はありません。
このように考えるとクレームを全く入れないお客様ばかり対応している技術者や会社は成長ができないため、最終的には自分達を潰してしまうと考える事もできます。
あなたにとって「いいお客様」とはどんな人達ですか?
ここまで「いいお客様」とはどんな人達なのかという事を考えてきました。
私は技術者ですがこの記事を読んで頂いている方は営業の方かもしれませんし経営者の方かもしれません。
立場によって同じお客様であっても「いいお客様」かどうかは変わってくると思います。
当たり前の話になりますが「いいお客様」とは自分達を幸せにしてくれるお客様だと私は考えています。
自分達がお客様を商品やサービスを通じて幸せにする。
だからお客様もお金を通して自分達を幸せにしてくれる。
WIN・WINな関係でいられるようにしていかなければなりません。
そのためにも「いいお客様」とはどんな人達なのかを自分の中で定義しその人達のために自分が何を提供していかなければいけないのかを考えてみて欲しいです。